安河内葉子の想い
【プレスインタビューより】
伊勢:直近ではどんなイベントをされたんですか?
安河内:大阪から勘緑師匠をお招きして、福岡唯一の三ツ星老舗料亭嵯峨野さんで、皆さんに人形浄瑠璃をご鑑賞いただいた後にランチを食べながら交流していただく会をいたしました。
伊勢:実際にそういったイベントにいらっしゃる方の年代って、どの年代が多いんですか?
安河内:今回30代から70代の方が来られていましたけれども、一番多かったのはやっぱり30後半から40代くらいの方ですね。
多岐にわたる「木乃花の会」の活動
伊勢:他にはどんなイベントをされているんですか?
安河内:「きものde博多座」「小筆講座」「月イチ・ランチ会」などいろいろなイベントを開催しています。また、「日本文化を愉しむ会」というのをやっておりまして、歌舞伎役者さん、それから狂言師、能楽師、筑前琵琶奏者、琴奏者とかをお招きしています。あとは博多織を見に行きましょう、というようなことをやっています。先ほどお話しした人形浄瑠璃のイベントも「日本文化を愉しむ会」なんですよ。
歌舞伎は見どころがたくさん
伊勢:歌舞伎の魅力って何ですか?
安河内:歌舞伎という漢字を思い出してもらいたいんですけれども、「歌」が音楽で、「舞」が舞踊で、「伎」が芝居なんですね。この三つが揃って歌舞伎。役者さんもたくさん出られますので、ああいう顔が素敵、こういう顔が素敵だとかいうような楽しみもありますし、生で見られる豪華絢爛な衣装も見ごたえがあります。あと歌舞伎って早変わりが凄くって、それを見ているだけでももうスリル満点。一度なんか花道で両方から来た人達が、すれ違うわずか27秒で入れ替わったんですよ。
伊勢:え?
安河内:もしお坊さんと侍が来ていたとすれば、その人達が一瞬にして入れ替わっている。うそ〜、全然わかんなかった!みたいな。
伊勢:そんなことが目の前であるんですか?
安河内:あるんです。ほかにも音楽が変わったり情景が変わったりすると、一瞬でパッと衣装が変わる引抜とか。そういう見どころもありますし、なんといっても音楽も素晴らしいんです。オーケストラのような感じで、三味線、唄方、鳴物とかがずらーっと並んで、それはそれは生でこんなに豪華な音を聞いていいんでしょうかっていうぐらい素晴らしい音楽が流れます。
芝居小屋はあのテーマパークのような存在だった
伊勢:今おっしゃっているような歌舞伎の見どころというのは、江戸時代から変わらないんですか?
安河内:はい。(歌舞伎がある)芝居小屋は江戸の町民が、たまに遊びに行くところだったんです。昔は電気も無かったですから、日が昇るとともにお化粧しておめかしして、ちょっとお弁当を持って、日が沈むまでのその一日を楽しむような場所だったんですよ。だからまぁ、現代で言うとディズニーランドのような場所だったんです。
伊勢:歌舞伎というと、お着物を召したお姉さま方達が行くかしこまった場所という印象があったんですけど、ディズニーランドと言われると、すっごく庶民的なエンターテイメントって感じがしますね。
今に受け継がれる歌舞伎の智恵
安河内:今はCGとかなんとかって細工すれば、(存在しないものが)あたかもそこにあるかのように見せられますが、(歌舞伎はそういった技術が)何にもないアナログな時代に、どうやって観客を楽しませるかっていう工夫が随所にされていたんですよ。だから、今も堂本光一君がワイヤーで飛んでいるのは、歌舞伎の宙乗りっていうのが元々なんです。江戸時代からちゃんとロープで吊って宙乗りっていうのをやっていたんですよ!今は時代が変わってきたので、ワイヤーで吊りあげるってことになっていますけど。
伊勢:歌舞伎って、意外と形を変えて私達の生活に根付いてるんですね。
安河内:そうです。そうです。だから、歌舞伎の古典を守りつつ、その時代その時代に合ったように形を変えながら、進化しながら、未来に続いていっているんです。四百数十年前から始まった歌舞伎ですけども、このような形で残っている世界の演劇は無いです。日本だけです。海外だとどこも途中で様変わりしてしまっている。新しいものが出てきたら新しいものに変わって、また新しいものが出てきたら新しいものに変わる。だから、歌舞伎のように踏襲されて、伝統的に古典が残っていて、しかも現代的にアレンジされたものも同時進行でやっているっていう演劇があるのは日本だけですね。
伊勢:歌舞伎の話になってから、安河内さんのお顔がキラキラしているんですけれども(笑)
安河内:ははは、本当ですか(笑)
子どもにこそ本物の日本文化を
伊勢:なかなか普段馴染みのない日本文化というものに、もっと小さい頃から触れられたらいいなぁと思うんですけれど、そういう小さい子向けの活動ってされていないんですか?
安河内:実は最初に私が木乃花の会を立ち上げたのは、お子さんに日本文化に触れて欲しいっていう気持ちからなんです。それで今、「キッズ伝統芸能体験」というのを企画しています。
伊勢:体験っていうのは、一日体験ですか?
安河内:半年間かけて邦楽のプロ演奏者であったり、日本舞踊の舞踊家であったりから、直々に15回くらい稽古をつけていただいて、それで踊れるようになったり、弾けるようになったりしたものを発表する。だから、中期的計画になりますね。
伊勢:お子さんの対象年齢はどれくらいなんですか?
安河内:現段階では小学校から中学生にしていますけれども、幼稚園の年長さんだったら大丈夫かなっていうところもあるので、それはまたお問い合わせの上ってところですね。
伊勢:申し込みできるお子さんっていうのは、いいところの坊ちゃん、お嬢ちゃんじゃないとダメなんですか?
安河内:いや、全然そんなことはなくって、どなたでも参加していただけます。
伊勢:参加資格に何か時別なスキルが必要なわけではなく、普通の子どもでもチャレンジが出来るってことですね。
安河内:今までそういう楽器や舞踊を習ったことがないお子さんにチャレンジしていただきたいですね。
伊勢:それはどういった想いからですか?
安河内:もともと習っている方というのは、何も言わなくてもそのままお続けになるっていうコースを辿られると思うんです。だから、(日本的なものを)習ってない方に、一人でも多く日本の伝統文化に触れていただいて、それに興味をもっていただいて、将来愛し続けていただきたいですし、できれば(その体験をした子の中から)プロの演奏家になったり舞踊家になったりという、(将来の日本文化の)担い手が育っていってほしいですね。
日本文化にかける熱い想い
伊勢:近年存在感が薄れつつある日本文化を、そうやって知って欲しい、広げたい、伝えて欲しいというその原動力はどこにあるんですか?
安河内:日本はもう何千年も続いてきた世界有数の国であって、四季だったり景色だったり、山あり海あり、いろいろなものに恵まれた素晴らしい国でしょう。「美しい国」って誰か言ってましたけど、本当に日本って素敵だなって思うんですよ。でも今、どちらかというと西洋的な芸術であるとか、文化の方が優れているというような風潮がありまして。私の子どもの頃でも、やっぱりまわりの方達はお稽古事にしてもピアノを習ってみたり、バイオリン習ってみたりだとか、まぁ、洋よりのものが多くて、本来日本にある伝統楽器等をご存じない方もいらっしゃるというところがすごく憂えることなんです。せっかくなら(自分が)育ってきた文化を守っていって未来に継続していただきたいですし、そういう素晴らしい伝統文化がある国に生まれた日本人として、世界の中でも誇りをもって生きていって欲しい。それが私の願いです。
私はプラットフォーム
伊勢:木乃花の会の中で、安河内さんはどのような役割を目指していらっしゃるんですか。
安河内:私自身がすべてにおいてのスペシャリストではないので、私は皆さん達にとってプラットフォームのような役割を心掛けています。私がやっているイベントであるとか講座とかに来ていただいた方達に、(講座を通じて)日本文化に触れて、そこから興味を持っていただき、そこからもっともっとというような向上心をお持ちの方達が、次の段階に進むときの手助けをしたいと思っています。私が作る木乃花の会っていうプラットフォームから、専門家の先生行きの列車に乗せてあげるっていうお手伝いをするのが私の使命です。